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黒澤明と三船敏郎
映画史に燦々と名が刻まれる映画監督「黒澤明」。
黒澤明と並んで「世界のミフネ」と呼ばれる名俳優「三船敏郎」。
「七人の侍」でみせたダイナミックな映像表現、「生きる」「赤ひげ」ではヒューマニズムを追求、また「天国と地獄」「悪いやつほどよく眠る」では社会派サスペンス。
黒澤作品でチーフ助監督を務め、黒澤に「日本一の助監督」と言わしめた野村芳太郎監督が、こう評しています。
「僕は黒澤さんに2本付いたから、黒澤さんがどれほどの力があるのかを知っています。
彼の感性は世界トップレベルである。
爽雑物がなく、純粋に映画の面白さのみを追求していけば、彼はビリー・ワイルダーにウイリアム・ワイラーを足して2で割ったような監督になっています。
ビリー・ワイルダーよりも巧く、大作にはウイリアム・ワイラーよりも足腰が強くて絵が鋭い。文字通り、世界の映画の王様に…」
脚注※1
黒澤明は三船敏郎についてこう語っています。
「三船君は特別の才能を持っている。だから代わる人がいないんだ」
「三船の立ち回りって迫力あるでしょ。編集しててね、誰か用事があってきたんですよ。で編集機をストップして話をしていてふと画面を見ると三船が映ってないんですよ。コマに。流れてるんですよ。どのコマを観ても。ようするに速いんですよ、動きが。だからあんだけの迫力があったんだなと。だからあれずいぶん長く感じても時間は相当短いんですよ。長く観た感じがするでしょ。何でかというとギュッと緊張してみてるからなんですよ」
「立ち回りのシーンを編集していたら、コマの中に三船くんの刀が写ってないんだ。余りにも速すぎて写っていない。もし立ち回りのオリンピックがあるなら、三船くんが文句なしで金メダルをとるよ。」
「三船の泣くときなんかすごいよ、止まらなくなっちゃうね。《七人の侍》のときビックリしたんだけど、菊千代が暴れて泣くところがあるでしょう。「菊千代は百姓だから青っ洟たらしていいですか?」って言うんだよ。「それ、何かで作らせるの?」「いや出します」「えー!」だよね。「まあ、とにかくやってみてくれ」ってやったんだよ。そしたらほんとに出てくるのね青っ洟が。結局汚く見えるから、そうじゃないのと二つ撮っておいて洟の出ないほうを使ったけど。別に前に仕込んでた訳じゃないんだ。やってるうちに出しちゃうんだからさ。そう器用な俳優とはいえないよね、彼は。でもちゃんとやるもん。」
「羅生門」「生きる」「七人の侍」の脚本家橋本忍はこう語っています。
「『銀嶺の果て』でラッシュを観て、僕はびっくりした。特に三船さんがバストアップでセリフを言っているシーンなんだけど、今まで観たことがないと思って、こんな俳優さん。鮮烈で実に新鮮だった」
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時代を超える映画とは?
映像感覚というのは、時代的なものがあるので、今黒澤映画を見るとダサかったり、古臭かったりするところもあるかもしれません。
やすしきよしの漫才がダウンタウン世代には笑えなかったり、ダウンタウンの漫才が今の世代には古臭くて笑えなかったりするようなものといっしょかもしれません。
しかし、そこで終わるんじゃなく、もっと想像力を働かしながら映画を見ることが大切なんじゃないでしょうか。
その作品がドロップされたころの時代背景、常識、流行り、タブーなどを我々は知りうる範囲の情報を元にイメージしながら鑑賞してみませんか。
歴史のカルチャーの歴史紐解いていくというような感覚で鑑賞出来れば、過去の名作(映画以外のものも含む)をどんどん味わえるようになるかもしえません。
そんなことをしなくても、黒澤映画が映像が持っている「画力」は、単純に今見ても力を持っていますよね。重厚であり、色彩豊かであり、構図が美しい。
役者の演技、セリフ。音楽の質や入り方。タイトル&エンドクレジットの入り方。カメラワーク。映画で訴えかけたいテーマ。練られた脚本。
今思いつくだけでも、これだけの理由が出てきます。だから、なぜ凄いのか?なんて考えることがおかしいんですが 笑
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世界のミフネ
日本のスター俳優は数あれど、世界を相手に観客を虜にした俳優は三船敏郎しかいません。映画の黎明期ハリウッドに渡った早川雪洲は例外として。
マーロン・ブランド、ロバート・デ・ニーロ、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシ、アラン・ドロン、クリント・イーストウッド…キリがないのでやめますが、あらゆる巨匠映画人から憧れられ、また世界的人気も博した要因は何だったのか?
欧米での大衆人気を得ることができたのは、SAMURAIというもの自体が欧米人にとって興味をそそられるものであって、そのSAMURAIを三船がこの上なく日本人らしくクールで豪快に演じたからでしょう。
「レッド・サン」あたりは見方によっては、ちょっと笑けてくるのですが、この映画で演じた侍は日本人の私が見てもすごくカッコ良かったですし、共演のチャールズ・ブロンソンやアラン・ドロンを食っていましたよね。
彼の魅力を上げていくと、
・スクリーンにたたき出される圧倒的存在感
・イケメン
・雄のギラギラした魅力
・太くて大きな声
・徹底した役作り
・現場での謙虚な態度
・身体能力
・殺陣、立ち回り
挙げ出すとこれもキリがない感じになってくるのですが、世界のミフネとして影響力を持った要因は、ずばり、その身体能力を生かした殺陣・立ち回りの素晴らしさではないかなと思っています。
もって生まれた面や体格や声と、戦争を兵役で生き抜いてきた人生経験から放たれる圧倒的存在感。これは唯一無二。三船敏郎の変わりは世界に居ません。
その存在感以上に変わりがないのがその運動神経であって、その類まれなる運動神経を生かした殺陣は黒澤監督を惚れさせ、映画ファンを惚れさせたのです。
けっしてアクションスターという立ち位置で収まる俳優ではないんですが、そのチャンバラアクションという「分かりやすいカッコ良さ」がなければ、映画人などの玄人受けする俳優で終わっていたかもしれません。
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黒澤明はなぜ凄いのか?
高いクオリティを持っているからか?
生命力に満ち溢れているからか?
役者の演技なのか?
シナリオなのか?
黒澤作品の何にひきつけられるのだろうか?
生涯30作品を残した黒澤明、決して多作とは言えないが、その全ての作品が、何かを我々に訴えかけてきます。
しかし、それはもしかしたら「黒澤作品」と知ってみているからであって黒澤作品と聞かされず見ていたら、何も思わないかもしれない。そんな不安もふとよぎる。
いや、やっぱりどうだろう。「どですかでん」が私は一番好きな作品なのですが、あれは黒澤というクレジットでなくても、絶対に好きになっている作品でしょうし。
しかし黒澤作品というネームバリューがあったからこそ見てみようと思ったのは事実ですし。
まあ、そんなこんなで、このサイトではその才能の歴史をゆっくり辿っていきながら、「黒澤明っていったい何が凄いの?」という問いに対する「答えらしきもの」が見えてくればと思っています。
我々が黒澤作品に魅せられる理由は、世界のクロサワという影響力の武器によってか、それとも純粋に作品のクオリティによってか。
不束ながらも私の私見などもちょこちょこ入れながら、映画の勉強というか、芸術の勉強をサイトを作りながらしていこうと思います。
必ず見るべし!黒澤明が選んだ100本の世界中の名作映画
映画にまつわる名言集
脚注
※1 文藝春秋発行 小林信彦著書 「黒澤明という時代」より抜粋
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