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悪い奴ほどよく眠る
黒澤明「悪い奴ほどよく眠る」ここが凄い!ポイント
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「隠し砦の三悪人」の予算オーバーが原因で、黒澤を辞める方向に持っていった東宝だったが、儲かる映画を作ることが出来る監督を手放したくはなかった。
そこで、自由な映画作りを目指して、独立プロダクションを設立しようとしていた黒澤に、今後も作品の配給を東宝がすることを条件に、東宝と黒澤の間で資本金、制作費、利益を分配する新会社黒澤プロダクションを発足させた。
その第一弾となったのがこの「悪い奴ほどよく眠る」である。
黒澤は独立した途端儲け主義に走ったと思われたくなかったので、社会性の強いテーマを選ぶことにした。
しかしその意気込みが強すぎたせいか、いつになくシナリオ創作が難航し、脱稿までに3ヶ月もかかったという。
脚本は5人のチームで書き上げられた。いつもの黒澤脚本チームの菊島隆三、小国英雄、橋本忍に加えて、「我が青春に悔いなし」「白痴」以来の久板栄二郎が加わっている。
橋本忍は後の自伝で、
「私の参加は不遜で一方的だった。仕事にあてるスケジュールは2週間。その代わりノーギャラ。脚本料なしの極端の責任の軽い身勝手である。」と語っている。
重い内容ながらも娯楽性もあり、面白い作品に仕上がっている。テーマは汚職。このテーマは現在の目で見ても少しもズレていない。
2000年代の日本も汚職列島といって検挙と逃亡が繰り返されている。
政界の超大物は刑務所の入らない。代わりに部下の一人が逮捕され、ひっそりと死んでいく。
序盤の結婚披露宴のシーンで登場人物の相関図を紹介する方法は、後に映画「ゴッドファーザー」でも用いられた。
また、複雑な汚職事件の概要を手っ取り早く観客に飲み込ませるのに、黒澤はこの映画で結婚披露宴を使ったのだという。
黒澤版のハムレットか
黒澤作品の中でも、とりわけ悲劇感が高い作品です。
シェイクスピアの「ハムレット」と「ロミオとジュリエット」がプロットではないでしょうか。
オープニングの結婚式上で、マスコミ関係者を狂言師として、登場人物を一気に説明してしまうアイデアは、素晴らしいの一言ですね。
ややこしい汚職に関するストーリーですので、登場人物の相関関係を、はっきり視聴者にわからせないと、物語終盤までストーリーが??になりかねません。
批評家たちがこぞってこのアイデアを褒めて評価しているのを、見終わった後に知るのですが、見ている時は、そのオープニングを凄い!なんて当然思いません。同業者でもない限り、わからないでしょう。
しかし、やはりあのストーリーを2時間でしっかり伝えきる為には、冒頭にあのアイデアありきだったのだと思います。
妹思いの兄というキャラクターも、あの結婚式の一幕で強烈に伝わってきます。
ラストのエンドクレジットも、何か鳥肌が立ちます。
こういったクレジットの入れ方や音楽の使い方で、僕は好きな監督さんが決まってくると言っても、過言ではないんです。
マーティン・スコセッシ監督も大好きなんですけど、彼のそのセンスが抜群に好きなんですね。
黒澤明もそれを十分に満たしてくれます。
「用心棒」のタイトルクレジット、
「どん底」のエンドクレジット、
「影武者」のエンドクレジット、
「乱」のタイトルクレジット、
「どですかでん」のオープニング、
今思いつくだけでこれだけあります。
「どん底」のラストなんて、本当にカッコいいです。
この世の映画の中で、一番カッコいい終わり方でしょう。
おすぎが語る『悪い奴ほどよく眠る』
『悪い奴ほどよく眠る』は、流行り言葉にはなたたんですけど、やっぱり失敗作だと思う。
お金持ちの家の中でのいろいろな事件を描きながら、描き切れなかったと思うのね。そういう失敗作もある。
映画が公開されたときにはそうは思わなかったにも拘わらず、ビデオを発売するときに色々コーディネートをしたんですが、その時に観てこれは黒澤さんの中では失敗作だなと思ったのね。
だから、決して作ったものが全部いいわけではないところに黒澤さんの面白さがあるんじゃないかと思うんですよ。
30作品作りましたけど、決して多作の人ではなかったですね。結局作れなかった時代があるから。黒澤さんに失敗作があるということはとても人間臭くて神様ではないというところが、すごくうれしいような気がするのね。
それは『まあだだよ』も含めてだけれども、黒澤さんの映画を見る時に絶対的な神様の映画なんだなぁと思わないでみるべきじゃないかと思っています。
※4 河出書房新社発行 「黒澤明 生誕100年総特集」より抜粋
評論家春日太一が語る『悪い奴ほどよく眠る』
時代劇評論家春日太一氏と芸人であるサンキュータツオ、アニメ監督の宮地昌幸氏による『悪い奴ほどよく眠る』対談。
春日 黒澤明って『七人の侍』で世界の巨匠になって世界的なヒットメーカーになるんですけれども、このあとも『蜘蛛巣城』や『隠し砦の三悪人』など面白い時代劇を作っていくわけですが、一方で黒澤天皇になってしまって、お金を使い過ぎる監督ということで、東宝が黒澤に独立プロダクションを作らせて、映画製作の金銭感覚をつけてもらおうということになった。
東宝配給ではあるけれど、独立採算制で映画を作るようになった第一作目が『悪い奴ほどよく眠る』で、これ自体はあんまり当たらなかったわけですね。
でも独立採算制なんで当てないといけないということで、次に勝負かけてきたのが『用心棒』『椿三十郎』だったわけです。ここで時代劇の歴史を変えてくるわけですけれども。
まあ、一応当てにいった作品ではあるんですが、基本的に黒澤が作りたかた作品ということになりますねこの『悪い奴ほどよく眠る』は。
ボクは子供のころに名画座で見て、大好きな作品ではあるんですが。社会派サスペンスってジャンルがもともと大好きなんですが。
サンキュータツオ 面白ろかったです。まず、三船敏郎がこういう理知的というか、クールなお芝居をやってるのがとってもよかったですし、なによりも加藤武が良かったですね。
あのー、金田一シリーズに出てくる加藤武より好きでしたね。若くて元気もあって、三船とのいいコンビネーションがあって、そこも凄く良かったですし。
最近でいえば、復讐ものといえば『半沢直樹』とかになりますが、最近のものと違うというか、時代を感じるのが、「悪い奴ら」というものが会社内とかではなくて、役人であるということ。
敗戦を経験している、高度経済成長を経験している黒澤明が感じる国家に対する不信感とというか、今の我々が全然盤石と思っている国家というものも、当時は全然盤石ではなかった、そういう国家という前提をまず疑っていた世代なんだなということを教えられた作品ですよね。
宮地昌幸 黒澤さんの作品の中では、苦手な方の映画なんですけど。僕は映画監督や作家さんがその人がレンジを広げようとして挑戦的なことをやっているのは、その人の本質が出ていて凄くすきなんですけど、この作品は黒澤監督の挑戦とありのままが出てていいな〜と思いましたね。
あとはやっぱり黒澤監督って、アクションじゃないですか。だから本当は黒澤さん、最後、車が大破して主人公が死ぬシーンも、ちゃんと可視化したかったんじゃないかな〜って。セリフで終わらすか、アクションシーンとして可視化するか迷ったんじゃないかな〜って思いますね。
今回、前半の結婚式って特のそうなんですけど、あれをカラーにしてみると、『まあだだよ』に似ているな〜って。晩年の作品に以外と似ているんですよ。
カラーと白黒で黒澤作品って全然違うように言われがちですが、確かのミドルショットは大分減っているんですが、遠くから撮っている感じは、結局そんなに変わってないんじゃないかな〜って。
火山で落とすところなんかは、『夢』の鬼のシーンと似ていますよね。
だからそういうと、役者さんが入れ替わったことで、黒澤明の映画の魅力は変わったんだな〜って思いますね。
春日 結局、黒澤映画って、役者の顔でもっているところって多分にあって。黒澤映画って役者をどんだけかっこよく撮るか、見せるかっていう構図だったり、シチュエーションが多いんですよね。
だから役者が魅力的な表情や顔だったので自然と寄りで撮っていたってことでしょうね。
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かんたんなあらすじ
岩淵佳子と西の結婚式が盛大に始まった。
佳子の父は、土地開発公団の副総裁であり、建設会社との汚職を
疑われている。嗅ぎつけた新聞記者達も駆けつけている。
西はその岩淵の秘書である。
ケーキ入刀で運ばれてきたケーキは、公団のビルの形をしており、
7階部分には、目印のように赤いバラが刺さっている。
その赤いバラが刺さった場所は、
5年前、課長補佐の古谷がそこから自殺をした場所。
なぜ、そのようなケーキが…
岩淵とその部下たちは、動揺を隠しきれない…
製作:田中友幸 黒澤明
脚本:小国英雄 久板栄二郎 黒澤明 菊島隆三 橋本忍
撮影:逢沢譲
美術:村木与四郎
照明:猪原一郎
音楽:佐藤勝
助監督:森谷司郎 坂野義光 西村潔 松江陽一 川喜多和子
出演:三船敏郎 森雅之 香川京子 三橋達也 志村喬 西村晃 藤原釜足

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