黒澤明作品の影響を受けた映画【荒野の用心棒】

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【荒野の用心棒】

黒澤明監督の名作時代劇が、『用心棒』。
流れ者の浪人が圧倒的な強さで、田舎町を乗っ取っている無法者たちをズバズバ切り倒していく、爽快な
作品です。

 

ところがこの『用心棒』の配給元である東宝から、著作権問題で訴えられた西部劇が存在します。
それが『荒野の用心棒』です。

 

黒澤明『用心棒』の舞台をそのまま西部開拓時代に置き換え、主人公の侍(三船敏郎が演じる剣術の達人)をガンマン(クリント・イーストウッドが演じる早撃ちの名人)に置き換えて制作されたものです。
見れば見るほど、ストーリーラインが同じです。

 

どうしてこのような「黒澤映画のパクリ疑惑」な西部劇ができてしまったのでしょうか?

 

 

制作の経緯としては明らかに「盗作」として叩かれてやむなし

 

発端となったのは、イタリア人の映画監督セルジオ・レオーネが、映画館で『用心棒』を鑑賞し、いたく感激したところから。

 

「これは面白い!ぜひリメイクしたい!」と決意したセルジオ・レオーネとそのチームは、『用心棒』の脚本を徹底的に研究し、それをそのまま西部劇の設定に置き換えるところから制作をスタートさせました。

 

いまでいう「翻案」「脚色」といったところです。

 

こういう背景の映画自体は、よくありますよね?
つまり、この時点でイタリア側から東宝に連絡を入れて契約をちゃんと整理しておけば、なんの問題もなかったはず。

 

ところがセルジオ・レオーネは、やっておくべき「日本の映画会社への確認」をまったく行わずに撮影を開始し、公開までこぎつけてしまいました。

 

前後の状況を見るかぎり、おそらく悪意はなかったものと思います。

 

1960年代というおおらかな時代のことですし、西欧人にとっては日本という国も「どこか遠い田舎の国」くらいの印象しかなく、わざわざ著作権の確認を取る必要があるなど、思いもしなかったのでしょう。

 

ところが、イタリアの制作者たちの悪意の有無は別としても、客観的にはこれはどう見ても「盗作」となってしまいます。
けっきょく東宝は本作『荒野の用心棒』を相手に訴訟を起こし、見事に勝訴しました。

 

少なくとも、「日本映画だからといって著作権を無視すると訴えられるぞ」というプレッシャーを西欧映画界に与えたことで、日本映画(ひいてはアジア映画)の地位向上に貢献した事件とはなったわけですが、どこか禍根の残るよろしくない結末となってしまったのでした。

 

 

「黒澤の盗作だから」などといって敬遠するのはもったいない!十分に個性的で面白い『荒野の用心棒』!

 

さて『荒野の用心棒』といえば、こうした背景があるせいで、往年の日本の映画ファンには「日本映画界をなめきった盗作映画」という悪いレッテルを貼られてしまっているところがあります。

 

ですが、ここで声を大にして言いましょう!

 

『荒野の用心棒』は、現代の眼で見てもじゅうぶんに面白いアクション映画です!
これを「黒澤のパクリだから」と言って敬遠するのは勿体ない、じゅうぶんに映画史上に名を残せる名作です。

 

確かに、ストーリーラインは黒澤明の『用心棒』をそのままなぞっているものです。
ですがそれも、黒澤明の『用心棒』を知っている人が見ると、
「ああ、『用心棒』は舞台が江戸時代の日本だからああいう小道具が出てくるところを、『荒野の用心棒』ではこういう小道具に置きかえて表現したのか!」などなど、細かい点での「日本⇔ウエスタン」の転換の工夫にニヤリとさせられます。脚本家のアイデアがいちいち冴える、巧い「翻案」になっています。

 

 

むしろ『荒野の用心棒』が世界のアクション映画に影響を与えた!?間の撮り方の妙!

 

そしてこの『荒野の用心棒』最大の面白さは、主人公であるクリント・イーストウッドの、すさまじいばかりの「早撃ち芸」でしょう。
ただただ、カッコいいです。

 

西部劇でいう早撃ちというのは、ホルスターからピストルを抜いて相手よりも早く引き金を引く、というだけの話なのですが、
当然ながらピストルというのは早く撃とうとするとその分、狙った的に当たらなくなります。

 

グアムやハワイや韓国などで射撃練習場を観光で訪れたことのある人は良くわかると思いますが、ピストルというのは、意外なほどに当たらないものなのです!

 

そのピストルを電光石火の素早さで抜くことができて、それでいて狙いは百発百中でハズさないとなると、西部開拓時代では最強の男となります。
それがこの『荒野の用心棒』の主人公。

 

一人対一人の対決どころか、一人対五人の決闘でも、この主人公は早撃ちで勝ってしまいます。

 

・主人公一人と五人の悪漢が、無言でにらみ合う
・ジーっとにらみ合う
・まだにらみ合う
・それで突然、主人公が素早くピストルを抜いて「パンパンパンパンパン!」と5連続の銃声が鳴り響く
・一瞬の静寂
・悪漢五人がバタバタバタバタバタッと画面の奥で崩れ倒れる

 

と、こんな感じです。

 

「どんな早撃ち名人だとしても、そんなバカな!」とツッコミたくなるほどの圧倒的な強さです。
正直、現実離れしている設定ですが、この映画の主人公を演じているクリント・イーストウッドがとても恰好よくハマっているので、映画を見ている人は「こんな男ならきっと五人相手でも負けない早撃ちなのだろう!」となんとなく納得してしまうのです。

 

それどころか、思わずのめりこみすぎて、映画を終わった後に「うーん、バンバンバン」と早撃ち名人になったかっこいい自分の空想に浸ってしまったりします。映画の説得力の不思議です。

 

にらみ合い、にらみ合い、タメにタメてからの、突然の「電光石火のハヤワザで決着がつく」!

 

この「タメてタメてからの決着」という時間の使い方は、決闘シーンの定番の撮り方として、その後の西部劇のみならず、日本の時代劇にも逆輸入されて、いろんなジャンルで利用されることになりました。

 

映画のみならずアニメなどでも、知らぬ間に『荒野の用心棒』の影響を受けちゃっている作品は多いと思います。

 

このようにとにかくカッコよくて面白い『荒野の用心棒』。
ただの「黒澤の盗作」などではない作品です!ぜひ一度、見ていただければと、強くオススメします!

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