1975年に制作された、『風とライオン』(The Wind and The Lion)という映画があります。
この映画を監督したジョン・ミリアスは、たいへんな黒澤明ファンとして知られています。
本作『風とライオン』にも、あからさまな黒澤明映画からの影響がみられる名場面があるのですが、まずはそのシーンの紹介の前に、この特異な映画の基本データを紹介しておきましょう!
ショーン・コネリーがモロッコの族長として登場!?アラブ文化に好意的という珍しいアメリカ映画
本作品の舞台は、二十世紀初頭のモロッコ。
世界史の教科書に出てくる通り、モロッコを含めたこの頃のアフリカ諸国は西洋列強の進出を受けて、文字通り食い物にされておりました。
時のモロッコのスルタンも、イギリスやフランス、ドイツの思惑に翻弄され続けるだけの情けない状態。
そんな時代に、モロッコのある族長が部下を率いて砂漠で決起し、シミター(三日月刀)を携え馬に乗って、西洋列強に反乱を起こしました!
・・・というのが、この『風とライオン』の背景。
主人公にあたる勇ましいモロッコ人族長を演じているのは、ジェームズ・ボンド役で有名なショーン・コネリーです。
「アラブ人ではなくてスコットランド人の俳優じゃないか!」というツッコミは避けられません。
が、そのあたりの細かいところに関しては、1975年の制作作品というおおらかな時代背景もあって、特に当時は誰も気にすることもなかったようです。
むしろそのような時代にあって、アメリカの娯楽映画の中で、「アラブ人がヒーローでヨーロッパのエリート層が悪者」という設定がとられていること自体が、実に珍しいことであり、率直にオドロキではないでしょうか?
もっともこの映画、ヒーローと悪役の関係がかなり複雑で、アメリカからやってきた海兵隊は、「アラブ側に義侠心を感じて、最後はアラブとともにヨーロッパ(特にドイツ)列強と戦ってくれる仲間」という意外な展開になったりもします。
このあたりは、当然本作はアメリカ映画なので、「アメリカ軍が話のわかるカッコいい奴らとしないとおさまりが悪かった」だけ、ということかもしれませんが。
そうはいっても、アメリカ軍がアラブ民族にシンパシーを感じて一緒に立ち上がり、傲慢なヨーロッパ人たちを追い出しにかかる映画など、今見てもかなり風変わりな設定と言えるのではないでしょうか?
黒澤の露骨な影響力は中盤の場面に登場!アラブの族長が馬の上から敵を刀でバッサリ!
本作の中で黒澤明作品からの明白な影響が見えるは、中盤のアクションシーン。
海岸で、馬に乗って逃げる敵を、ショーン・コネリー演じるアラブの族長がこちらも馬に乗って猛スピードで追いかけ、おいつきぎわに「エイヤ」と刀で斬り付けて倒します。
斬られた側は豪快に落馬して絶命する。
凄い迫力のシーンですが、これは黒澤明のファンならばモトネタがすぐにわかります、『隠し砦の三悪人』の騎馬戦シーンです!
三船敏郎が馬を駆って、逃げている敵兵を「ヤーッ」と斬り倒すシーンですね。
あまりにもそのままの構図!
ひょっとしたらジョン・ミリアス監督は『隠し砦の三悪人』のこのシーンを自分で再現したいがために、この映画『風とライオン』を企画した?
刀を持った英雄が馬に乗って敵を追いかけるというシチュエーションを撮りたいがために、主人公をアラブの族長にしたのではないでしょうか?
黒澤明作品と『風とライオン』の共通項:つまり馬の撮り方が格好いい!
そういえば黒澤明監督は、「馬」という動物の撮り方にとてもこだわっていますね。
『隠し砦の三悪人』もさることながら、『七人の侍』における騎馬シーンも素晴らしく、また晩年の作品である『影武者』や『乱』での騎馬合戦シーンの数々も忘れがたいものです。
ジョン・ミリアス監督の『風とライオン』についても、上記の場面の他に、馬に乗った集団による屋敷への乱入シーンあり、騎馬集団による街への突撃シーンありと、「馬」を使った格好よい場面が多々あります。
「馬」を格好よく撮る、というところを、いかにジョン・ミリアス監督が黒澤明監督から学び吸収したかに注目しながら『風とライオン』を鑑賞すると、いろいろな面白い発見があるかもしれません。
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