映画作家と職業監督
一口に映画監督と言っても、役割や権威などは様々。
黒澤明は、自分で映画にしたい題材を見つけてきて、企画をあげて、脚本を書き、演出する映画監督であって、いわゆる職業監督とは一線を画している。
ハリウッドでも日本でも、そのような監督はマイノリティであって、多数は雇われ監督である。
しかし、世界でも巨匠と呼ばれる監督は、ほとんど例外なくそのマイノリティ側の人たちなのです。フェリーニもヴィスコンティも大島渚も山田洋次もすべて、自分がやりたいことを見つけてきて、一本の映画で見せつけるという映画作家なのです。
黒澤明は生涯で製作した30作品のほぼすべてが、自ら企画をあげて自ら撮ったもの。
黒澤はいったいどんな題材を好んでいたのか?
全30作品のうち、小説や古典演芸などを下敷きにした作品は15作品と半数あった。
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作品 |
原案 |
---|---|
姿三四郎・続姿三四郎 | 富田常雄の小説 |
虎の尾を踏む男たち | 能「安宅」と 歌舞伎「勧進帳」 |
静かなる決闘 | 菊田一夫の戯曲 |
羅生門 | 芥川龍之介の小説 |
白痴 | ドストエフスキーの小説 |
蜘蛛巣城 | シェイクスピアの戯曲 |
どん底 | ゴーリキーの戯曲 |
椿三十郎 | 山本周五郎の小説 |
赤ひげ | 山本周五郎の小説 |
どですかでん | 山本周五郎の小説 |
天国と地獄 | エド・マクベインの小説 |
デルス・ウザーラ | ロシア時人探検家の手記 |
乱 | シェイクスピアの戯曲 |
八月の狂詩曲 | 村田喜代子の小説 |
ロシア文学に精通していることは知られた黒澤だが、これを見ると、英国シェイクスピアや日本の伝統芸能や小説などにも、関心が高かったことがわかる。
「蜘蛛巣城」ではシェイクスピアを映画化した作品の中で、最もシェイクスピア的であるとして世界中で評価を得ているし、「どですかでん」は原作家の山本周五郎に小説を超えたと言われるなど、黒澤の文学への理解の高さがうかがえる。
またオリジナル脚本作品にも、それらの影響は現れている。「醜聞」は限りなくドストエフスキーらしいという批評もよく聞くし、「生きる」はトルストイの「イワン・イリッチの死」が原作とも言われている。
「七人の侍」は「壊滅」というファージャーエフの小説がヒントになっているらしい。
画家志望のアーティスティックな男・黒澤明は、文学系にもすこぶる強かったんです。
※黒澤明の作劇術 古山敏幸 フィルムアート社 より引用

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