43年、黒澤は小学校時代の同級生でシナリオライターの植草圭之助と
銀座の書店で偶然に再会した。
その後、一緒に映画を作ろうということになり、D・W・グリフィスの名作「素晴らしき哉人生」より着想を得て実現したのが本作品。
グリフィスの映画では、若いポーランド人の2人が住宅難で結婚できない。そこで空き地を借りてジャガイモを植え、その収穫でちいさな家を建てようとする。
やがて収穫の時期にジャガイモを運んでくると暴漢に襲われてすっかり盗まれてしまう。青年は絶望するが、恋人は彼を励まして再起させる。というストーリ-である。※1
作中の終盤、主人公の昌子が突如スクリーンの中から鑑賞中の観客に向かって拍手を求めるという実験的な演出がなされており、これは日本では成功しなかったが、パリの観客たちは熱烈な拍手を送ったという。
今、観返してみると、中盤での主人公の部屋でのシーンはちょっと長く感じられてしまう。長いのがダメって言ってるわけではないのだけど、長いシーンがもつメリットとデメリットを天秤にかけたとき、やっぱりデメリットが勝ってしまうんです。現代の尺度で見れば。
途中、コンサート開場に走りながら向かう二人の引きカットは好きです。この映画で一番いいかもしれません。
ロケーションの多くは上野や新宿での隠し撮りによる撮影だったが、雄造と昌子に似た服装のカップルが多く、2人を見失い撮影がしばしば中断したという。
この映画のポスターを見ると、黒澤明の名はまだ小さい。
黒澤はこの映画の撮影中に、東宝ニューフェイス第一期オーディションを見た高峰秀子に
「なんか凄いのがいる」と呼ばれ会場に駆けつけ、後に黒澤映画の看板役者となる三船敏郎と出会う。
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あらすじ
戦争の傷跡が残る東京。
職には就いているが、友人の家に居候の雄造と姉の家に同居の昌子。
一緒に住むこともままならず、週に一度、日曜日にお互い合えることだけが、唯一の楽しみであった。
戦後の住宅難で結婚できない雄造と昌子のカップルが、日曜日をともに過ごすが、行く先々で惨めな思いをする。
憂鬱な気分を振りはらえない雄造と、希望を失わないように明るく振舞う昌子。
ラストでは無人の野外音楽堂の舞台に立って指揮をとる雄造。
しかし現実には厳しく風が吹きすさぶだけ。そこで昌子は、映画を見ている観客に向かいメッセージを投げる。
この映画のラストはほんと綺麗ですね。白黒万歳と言いたくなる映像の感覚です。
戦後の復興ままならない日本を必死で生き抜く主人公。
現代の日本とはレベルが違うけれども、貧困というテーマにおいては、共感できるものだと思う。
これからどんどん経済的にも二極化していく日本。
主人公カップルの未来は、劇中では描かれていないが、高度経済成長にのって豊かで幸せになっていったであろうと予測できるが、我々の未来はどうであろうか?ふとそんなことを考えながら見ていた。
製作:本木荘二郎
脚本:植草圭之助
撮影:中井朝一
美術:久保一雄
照明:岸田久一郎
音楽:服部正
助監督:小林常夫 今泉善珠
出演:沼崎勲 中北千枝子 菅井一郎 中村是好 清水将夫 渡辺篤
※1 文藝春秋発行 小林信彦著書 「黒澤明という時代」より抜粋
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黒澤明の監督デビュー作である。富田常雄の小説の前半部分から、姿三四郎と恋人の乙美と南小路という、子爵の令嬢の三角関係を描いたメロドラマ的エピソードをのぞき、柔術を通じて人間的に成長していく三四郎の姿を描いている。師匠・矢野正五郎と三四郎との子弟関係が物語の中心となっている。師匠と弟子という、後の黒澤...
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「姿三四郎」のヒットに気をよくした東宝は、黒澤に続編を作ることを命じた。続編を作ることにあまり乗り気でなかった黒澤は、無理やり創作意欲を駆り立てての撮影となった。そのため、主人公の三四郎よりも適役の檜垣兄弟に対する比重が大きくなり、アンバランスな作品になったしまったと言う。しかしクライマックスの雪原...
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黒澤明と三船敏郎の黄金コンビ第一作。肺結核の冒された若いやくざと、彼を治療しようとする町医者の交流を描いた作品。志村喬演じるの老練な男と三船敏郎演じる未熟な若者はそのまま「野良犬」の先輩後輩という子弟関係に繋がっている。本来この作品の主人公は医師に真田役の志村であるが、完全に準主役の三船が主役を食っ...
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山本周五郎の「赤ひげ診療譚」の映画化で、最後の黒澤・三船コンビの作品である。原作は江戸時代に幕府が設けた貧しい病人たちの為の医療機関・小石川診療所の所長で赤ひげと呼ばれる医師・新出去定を主人公に、いくつかのエピソードから構成されたオムニバス小説だが、黒澤はひとつの流れとして捉え、新参の弟子・保本登が...
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白痴を撮った後、ロシアの探検家ウラジーミル・アルセーニエフの探検記を「エゾ探検記」として企画したが、結局その時は流れてしまった。20年後、ソ連から黒澤に一本撮ってみないか?と依頼があり、70ミリの大作映画として完成したのがこの「デルス・ウザーラ」である。シベリアの密林に住む猟師と探検隊隊長の友情と師...
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カンヌ国際映画祭でオープニング上映された作品夢を題材にした8つのエピソードからなる、ファンタスティックなオムニバス映画。黒澤を崇拝するスティーブン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが援助に乗り出し、撮影に漕ぎつけた。そのため、配給権がワーナー・ブラザーズ渡ってしまい、日本では自由に上映することが出来...
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村田喜代子の原作「鍋の中」を元にした反核映画。原爆投下で主人公の夫が亡くなったことについて、リチャード・ギア扮するクラークが主人公に謝罪するシーンでは欧米からの批判もあった。しかし黒澤作品で描かれる木々の美しさと雨のシーンは圧倒的であり、本作のラストでもその魅力が出ている。ヴィム・ヴェンダースとの対...
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作家・内田百聞とその門下生たちとの交流を描いたヒューマンドラマ。当初は3時間近い長尺の作品になるはずであったが、徹底的にリハーサルを重ねていった結果、2時間14分の作品に仕上がった。それだけに段取りが良すぎるところが鼻に付くところもあるが、その内容の濃さには感嘆せずにはいられない。黒澤は脚本段階から...
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