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町山智浩氏が語る20世紀名作映画講座「七人の侍」
映画評論家の町山智浩氏が日本映画の至宝『七人の侍』について語っている内容をまとめてみました。
町山さんに『七人の侍』に対する見解の深さもさることながら、対談相手の春日太一氏の情報量が凄いです。
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『七人の侍』の3時間に及ぶ長さは最初から意図されたものだったのか?
春日 この映画は製作日数は271日で、総製作費は2億1000万円。当時の製作費の平均予算の7倍。終戦してまだ10年も経っていないこの時代では破格の予算。まず脚本段階、この脚本は、黒澤明、橋本忍、小国英雄が熱海の温泉旅館で泊まりながら脚本を書いていたんだけれど、プロットなしで書かれている。どんどんどんどん頭から書いていって、内容が膨らんでくる。途中でみんなが長いな感じつつも、誰も「これは長い」とは言わない。それだけみんな削りたくなかったんでしょうね。
町山 当時はフィルムの尺数が長いと、それだけで予算規模が巨大になってしまうんです。カメラを回しているだけで膨大なお金がかかっちゃう。だから予算的に完全に不可能な状態でなぜか通してしまった。
春日 当時の東宝の製作トップ森岩雄が「東宝再建の為にはどうしても大作が必要だ」として、正に社運を賭け、この『七人の侍』に乗っかるしかなかった。だから多少、というよりは思いっきり無理な企画であったが通してしまった。
町山 黒澤明自身も大作アクション映画というのは撮ったことがない。だから予想が出来ない。だから何度も撮影中止になった。その度に予算をもらって再開した。だから三船敏郎も何度もここでクランクアップかと思った、と懐述しています。
春日 黒澤も、大型アクション映画ははじめてだったので、後になって後悔している撮影もいっぱいあったという。
町山 一番悲惨だったのは、後半始まってすぐぐらいに、敵のアジトに火をつけるシーン、丸太小屋が燃えて利吉の奥さんが出てくるシーンですね。
小屋の燃やし方が分からなくて、とりあえず小屋を燃やしてアクションスタートしたのはいいが、あまりにも小屋があっという間に燃えてしまったので、実はあのシーンはNGシーンらしいです。
春日 利吉(土屋嘉男)が顔を押さえる仕草が垣間見れるシーンがあるが、それは本当に顔に火が掛かり、水ぶくれがたくさんできるぐらいの火傷を負ってしまったシーンだという。
この撮影で黒澤が言ったのは
「セットを燃やすと、中は空洞なので思ったより早く燃えてしまう。これはリアルな燃え方じゃないからダメ」
ということで『乱』の時は本当の城を作って燃やしたという。
町山 水車小屋が燃えるシーンも、燃やして、さあ撮影しようと言ってるうちに燃え切ってしまうので、3回ぐらい建て直してやり直したという。炎のコントロールがかなり難しかったというエピソード。黒澤明は、炎とか水とか風とか、コントロールしにくいものをわざと使って撮影する。今じゃ普通ですけど、火をバックにラブシーンなどは、日本映画ではなかったこと。
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農民が実際に武士を傭兵として雇う歴史的な事例は実際にあったのか
春日 『七人の侍』はもともと全然違う企画である『侍の一日』からはじまっている。
『侍の一日』は侍の日常を描いたシナリオで、橋本忍原案の企画。ある城勤めの侍がその一日の中であるミスを冒してしまい、最後は切腹して死んでいくという内容。
このシナリオは、詳細部分でどうしてもなっとくがいかない問題点があり、最終的にこの企画はボツになる。
次に出てきたのが、黒澤明が提案した「剣豪列伝」というシナリオ。
これは実在した剣豪たち8人の見せ場だけで構成していくオムニバス映画。
これは起承転結がないということで、ボツに。
そして次に出てきたテーマが武者修行。侍の武者修行を描いたらどうなるか?ということで、武者修行している侍は、実際どうやって飯を食っていたのか?
その事実を探していた時に、本木壮二朗プロデューサーがもってきた資料に、当時、侍が雇われて村を警備するというアルバイトがあったということが書かれており、それをみた瞬間に
黒澤「出来たね」
橋本「出来ましたね」
というやり取りがなさえたという。
町山 この「侍が雇われて村を警備する」というアイデアで、剣豪たちのオムニバスが起承転結のある一つの物語になり得ると、2人は瞬間でひらめいて、瞬間で確認し合ったということでしょう。
オムニバスのシナリオの段階で、7人の侍のうちの6人の設定や見せ場のシーンは出来ていたが、唯一出来ていなかったのが菊千代というキャラクター。なので『七人の侍』のオリジナルのキャラクターが菊千代である。
春日「侍が雇われて、村に入った時に、村人は怯えて出てこなかったというシーンで、一度シナリオは止まってしまったという。
”このシナリオは何かが書き足りない”と黒澤が言うと、
小国、橋本 「いや、カードはそろっていますよ」
黒澤 「いや、ジョーカーがいないでしょう」
ジョーカーとはつまり、何にでもなれるキャラということで、百姓でもあり侍でありというキャラクター「菊千代」をつくることで、百姓と侍を繋ぐことが出来ると。
町山 ということで、菊千代が侍にラインナップしたことにより、元々久蔵をやる予定だった三船敏郎が、急遽菊千代役に決定した。
宮口精二演じる久蔵のシーンが多い、かっこ良過ぎるという理由は、これで解決しましたね。元々三船敏郎がやる役を受け継いだからそうなったということです。
久蔵ネタの余談として、『荒野の7人』での久蔵役を演じたのは、ジェームス・コパーン。宮口精二と同様、馬面で最後に死に方が全く一緒という。笑
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戦闘シーンの撮影は画期的だった
町山 弓矢が刺さるシーンは、矢を筒にして、中に透明の糸を通して、標的の演者の背中に板をかまして刺さるシーンを撮影したという。
黒澤明のこの映画における発言ですごく叩かれた発言が
「人一人ぐらい死んでもしかたないでしょ」と言ってしまったという。笑
春日 黒澤はとにかくテーマありきの映画ばっかりつくってきて疲れたと。テーマなしで、理屈抜きで楽しめるアクション映画を創りたかったんだと。その条件を満たす設定としては時代劇が最適であった。『七人の侍』の根本はここにあるです。
「日本にはまだちゃんとした活劇が創れていない。そして外国映画を見ても、活劇の爽快感はあるが人間が描けていない。だから、これまでにない人間ドラマかしっかり描けている活劇を撮りたかった」こういうことを黒澤は言っています。
侍たちの死に様もリアルで時代劇のような大げさな感じで死んでいくのではなく、実際の戦闘シーンでの死に方のような割りとあっさりとした死に方だ。
あくまでも時代劇をつかった活劇ということで、アクションの描き方というのを日本映画の中に浸透させた作品がこの『七人の侍』。
そして外国に対しては、これだけのアクション映画に人間ドラマをしっかり盛り込めるんだぜ!てのをアピールしたのが『七人の侍』。
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『荒野の七人』にあって『七人の侍』にないもの
町山 『七人の侍』の敵、野伏せりはいったい何者なのかわからない。なにを考えているのか、何が目的なのかわからない。
これが黒澤明の独特の視点で、黒澤映画に共通することは、犯罪者になる人たちを徹底して悪として描いていること。犯罪者に対する感情移入が皆無であるということ。
どうしてこうなってしまったのか、どうして道を外してしまったのかという彼らなりの言い分や悲劇を考えようとしない、いっさい受け付けないのが黒澤明。その考え方が映画にも色濃く表されている。これが『荒野の七人』とは違うところですね。
春日 『用心棒』のシナリオは、ヤクザたちをかち合わせて滅ぼしていくというストーリーなのですが、これは主人公のやり方としてちょっと汚いのでは?という批判も当時はあったらしいが、黒澤はヤクザは滅びて当然という返答をしたという。
町山 初期の傑作『野良犬』は、タイトルの野良犬というのは犯人のことを言っていて、彼を狂犬扱いして、彼の哀しみや心情を全然拾おうとしない。ラストシーンの志村喬のセリフは黒澤の犯罪者に対する考え方を代弁しているようである。
三船「でもなんだがあの遊佐(犯人)って男が…」
志村「その気持ちには俺にも覚えがあるよ。最初に捕まえた犯人って妙に忘れられないものさ。しかしね、君が考えているより、ああいう奴らはたくさんいるんだ。何人も捕まえてるうちにそんな感傷なんかなくなるよ。
窓の外を見たまえ。今日もあの屋根の下でいろんな事件が起こるであろう。そして何人が善良な人間が、遊佐みたいな奴の餌食になるんだ。遊佐のことなんか忘れるんだな。
町山 こういった黒澤の犯人に対する描き方で一番避難を浴びたのが、『天国と地獄』。誘拐犯を誘拐罪で捕まえても死刑には出来ないから、そのまま泳がせて人を殺させて、殺人罪として捕まえて極刑に処するという警察の捜査方針が大変な避難をあびた。
黒澤曰く、犯人に殺される男もヤク中だから殺されていいんだと。
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