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脚本へのこだわり
七人の侍
「七人の侍」では橋本忍が第1稿を担当し、それをもとに黒澤と橋本がシナリオを根本的に書き直し、2人の書いたシーンの良し悪し、採用の判定は小国英雄がやるという。
黒澤組なので黒澤がトップではあるのだが、小国は当時のトップの脚本家ということで、一目置いてまとめをやってもらっていたという感じでしょう。
チーム編成で、40日間1歩も外へ出ず、多量の睡眠薬と飲酒でアイデアがでないイライラを掻き消す。
そんな息が詰まるようなことをやっていたと黒澤は語っている。
脚本を人に任せて、自分が考えていたいたもの以上のものが出来てくれば何も文句はないのだが、経験を経て、それがなかったということか。
脚本に関しては強烈に、ここのところを人に任せるわけにはいかないという自負、自覚が黒澤にはあるようである。
脚本というものは、監督のの頭の中にあるイメージを充実、克明に移し変えたものでなければいけないという思いがあったのだろう。
山本嘉次郎直伝「先ずはシナリオから」
「山さん(山本嘉次郎)は監督になりたければ、先ずシナリオを書け、と云った。
私もそう思ったから、シナリオを一生懸命書いた。助監督は忙しい仕事だから、シナリオを書く暇がないというのは怠慢だ。
一日に一枚しか書けなくても一年かければ、365枚のシナリオが書ける。
私はそう思って、一日一枚を目標に徹夜の仕事のときは仕方なかったが、眠る時間のあるときは寝床に入ってからでも2、3枚は書いた.。」蝦蟇の油より
黒澤が映画の世界に入って、山本嘉次郎に出会い、いちばん最初にいわれたことが「先ずシナリオを書けるようになれ」ということだった。
黒澤の最後の助監督作品「馬」が終わって、「姿三四郎」でデビューするまでに、 1年以上なにもしない待機期間が、あったらしい。
この間に彼はいろいろな脚本を書いて、さまざまな映画のシナリオコンクールに応募し、入選している。
コンクールでは連戦連勝で、他の映画会社が東宝撮影所の正門まで来て「脚本を売ってくれ」といって訪ねてきたという。
こうして会社の中で一目置かれる存在になる。
「姿三四郎」「一番美しく」「続 姿三四郎」「虎の尾を踏む男たち」までのデビュー後の4作品はすべて黒澤が書いた脚本である。
その後の2作品、「我が青春に悔いなし」は久板栄二郎、「素晴らしき日曜日」は幼馴みの植草圭之助が執筆。
この2作については、うるさく介入して意見を言ったが、自分でその場で書き直すというようなことはさすがにしなかったらしい。
そのあとの「酔いどれ天使」は植草、黒澤の共同執筆になる。
ここでは自らシナリオに参加して、軌道をはっきりと自分側に切り替える。
そのあとは世に名高いハードな黒澤明の脚本作りの旅館合宿がはじまる。
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人物像の徹底的な掘り下げ
脚本家がみんなで知恵を絞って人物を作り上げ、その人物像ならこういう行動をとるだろうとシナリオを進ませる。
黒澤は、人物の掘り下げについてこう語っている。
「新しい作品を生み出していくには、今まで描くことが出来なかったものを考えていくことになるでしょう。
それはストーリーでなく、人物で考えるべきだろう。
実は、今までの日本の映画は、小市民しか描けてなかった。
本当のインテリも、科学者も、芸術家も、政治家も、労働者も描くことが出来ないでいた。
これからはこういった人物を描いてみたいと思う。
よくストーリーがつまらないというが、ある人物を掘り下げて描くことが出来れば、その周りにおのずとストーリーは出来てくる。
ストーリー本位の考え方をしても、人物が描けなければつまらぬものになってしまう。
日本の映画人はストーリーの方から探すが、通り一遍の類型的人物がいくら出てきても、面白い事件は始まらない。」
黒澤は他の脚本家の案を「こんなの全然駄目だ」と平気で跳ね除け、時には原稿をビリビリに引き裂いたりもしたという。
小国英雄、菊島隆三、橋本忍らはこれに歯を食いしばって付いていった。
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