宮崎駿対黒澤明 対談@ 「映画の見どころはどこですか?って聞かれるのは困る」

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宮崎駿との対談

黒澤明,映画,夢,生きる,

 

1993年 5月6日放送 「映画に恋して愛して生きて」より

 

 

静岡県御殿場の黒澤の別荘に宮崎がやってくる。

 

宮崎が玄関口にくると、扉が開く。
黒澤が出てくる。

 

 

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宮崎 「あ、宮崎です」

 

黒澤 「どうもどうも、はじめまして。どうぞ。
    相変わらずね、富士山が半分し見えなくてね。」

 

宮崎 「ここは標高何メートルぐらいなんですか?」

 

黒澤 「えっと、600メートルぐらいかな、御殿場が大体600メートルぐらいだからもうちょっと高いかな。」

 

宮崎 「でもいいですね、ここの景色」

 

黒澤 「ええ、いいでしょ。」

 

宮崎 「下界を見下ろしている感じですね」

 

黒澤 「富士山だけ見える場所ないですかって。ずいぶん昔なんだけどね。富士山だけってのはちょっとないですけど、でも片方がゴルフ場ですけど富士山が見えるところありますって言うから(別荘を)買っといたの」

 

宮崎 「ずいぶん昔のことですか?」

 

黒澤 「ずいぶん昔だね。僕は26の時から御殿場で仕事しているもんですから」

 

宮崎 「26の時って、戦前ですよね?」

 

黒澤 「そうです」

 

黒澤 (富士山を見ながら)
 「今は少し雲が降りてきたでしょ。さっきはもっと見えていたんですよ。朝はもう全部見えていたね」

 

宮崎 (富士山の一部を指しながら)
 「あういうところは雨降っているんですかね?」

 

黒澤 「えーと少し振っていますね。」

 

宮崎 「でも面白い眺めですねここは」

 

黒澤 「面白いんですよ、刻々と変化しますからね。では入りましょうか」

 

宮崎 「はい」

 

 

 

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2人部屋に入っていく。

 

部屋を見渡して
宮崎 「うわっ すごい」

 

黒澤 「このソファは黒田達明って人間国宝の人の作品なんですよ」

 

宮崎 「すごい」

 

宮崎 (歩きながら、手土産を渡す)
「あ、これつまらないものですが、ふもとで買ってきたものです」

 

黒澤 「あ、どうもありがとうございます」
と言いながら、床に乱暴に置く (笑)

 

2人、対談用のソファに移動して座る。

 

映画のテーマやみどころを喋ってくれって言われても困る

 

宮崎 「ぼくも困ることが自分の映画について聞かれることですよね。自分のフィルムに全部出ているから」

 

黒澤 「そうだよね」

 

宮崎 「フィルムに出なかったところは弁解してもしょうがないですもんね」

 

黒澤 「いやーだから、映画館でお客さんが入っているときに舞台で挨拶することがあるんだけど、言うことがないんですよ」

 

宮崎 「そうですよね。で、テーマは何ですか?って聞かれると頭にきますね」

 

黒澤 「そう、あれは困りますね」

 

黒澤 「影武者の時かな。アメリカで舞台でスピーチしてくれって言われてね。ここにいるのは黒澤の影武者で、本当の黒澤はスクリーンに居ますからって言ったらみんなウケてたけど 笑」

 

黒澤 「そんな感じで、本当に困っちゃいますよね。」

 

宮崎 「その時に自信ありげな感じで、俺がやった作品はどうだ!って感じでやらないといけないらしいんですけどね、僕なんてもうしまった!ってところばかり作品にありましてね、その困ったなという累積債務が山のようにありましてね。実はどっかにこもって一人でほとぼりが冷めるまで隠れていたいって思っているときに、一番喋んないといけないでしょ。監督はどうなんですか・そこのところ」

 

黒澤 「だいたいね、編集が出来るまで何回も見るわけですからね。もう見たくないね。今度の僕の映画(まあだだよ)ご覧になってどうですか?」

 

宮崎 「あのー、三畳間で夫婦が暮らしてますよね。あっこ良かったですよね。奥さんがですね、弟子たちが来て接待するときに、
押入れの棚の上にまず置いて、そっから進めるでしょ。あっこすっかり感心しちゃいました。ああいう立ち振る舞いを僕らは全く突いてないんですよ。ですっと裏に隠れますよね、でそこに何があるか分かりませんけど、小さな空間を奥さんが上手に使って見苦しくないようにやっているってのが。あーいう日本の姿ってのはいつ頃消えたんでしょうかね」

 

黒澤 「そう。第一に香川くん(香川京子)ってのが実に見事にやってるんですよね。脚本ではね、香川くんについてはほとんど書いてないんですよ。」

 

宮崎 「あっ、そうなんですか。監督が細かく注文したわけではなくて」

 

黒澤 「そう、そうではなくて香川くんってのは旨いから、全部任せてあるんですけどね。リアクションを実によくやっているんですよ、逐一。それはもう感心しましたね」

 

宮崎 「黒澤さんが男の夢を描いたのかと 笑」

 

黒澤 「いやいや、もう香川くんに任せっぱなしで。だからぼくはほとんど香川くんを見てないですよね撮影のとき。安心してるから」

 

続きはこちら  宮崎駿対黒澤明 対談A 「夢」の水車小屋のロケについて

 

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