武満徹対黒澤明B 「テレビは映画の敵ではない。映画もテレビの敵ではない」

日本映画の体質

冬樹社「カイエ」1979年4月号より

 

 

武満 「日本映画の体質をどうやって変えてゆくかという問題ですね」

 

 

黒澤 「それを僕らも考えているんですけどね。まず、作品を創る場合にお金の問題があります。これでやっぱりヘゲモニーをとらなければね。それと同時にもっとも理想的で優秀な映画館をまず建てて、そこでロングランをやるんですね。そういうことを具体的にこれからいろいろ考えなければならないんですが、さし当たってそれは絶対に必要なんですね。僕らは一生懸命創るけど、それをなぜ映画館で悪くされなきゃならないのか。ちゃんと入れた音はちゃんと聞こえる形で見てもらいたい。ちゃんと撮った絵はちゃんと見てもらわなければ困る。そういう意味からいったら、プロジェクターを扱っている人たちにもっと考えてもらわなくては困る。そういう点でも根本から直してゆかなくては駄目ですね」

 

 

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武満 「映画全体がまるで自虐的になって口を開けば、映画は斜陽産業でってなことを言って…」

 

 

黒澤 「斜陽ってね、ぼくは嘘だと思うんだな。映画会社の事務員ぐらいいいものはないですよ。事務員って、月給もらってるのに殆ど働かないでしょ。ちゃんとしたことはやっちゃいないですよ。第一、映画を創ってゆくのにあれだけ大勢の人がいる必要はないんです。やはりピラミッド型になってなきゃね。上の方に優秀な指導部があって底辺でたくさんの人が全力をあげて働いているという型であるべきなのに、今はピラミッドがさかさまになっているということね。この一点で支えようとしても無理なんです。だからそのためにはまず、ピラミッドをいろんな柱で支えてそれからだんだんこういう形に直してゆくよりぼくはしょうがないと思いますよ。それで良い作品を創っていくということは、いま既にある大きな映画会社にとってもちっともマイナスになることじゃない。先のことを考えれば、映画会社にとっていいことなんですよね。それからテレビと映画の関係も、もう少し調整しなくてはいけない。決してテレビは映画の敵ではない。映画もテレビの敵ではない。これはいとこ同士かなんかでとにかく血のつながりがあるものでしょう。お互いに話し合ってやっていけば、ああいう無茶な、俳優の取り合いっこなんかも無くなると思うんです。コマーシャルももっと形のいいものになる。あんな無茶苦茶な入れ方するんだったら、あんなのはもう二度と飲まねえ、とかいう人に方が増えてる。とにかく体質を改善していかなくては駄目ですよ。そういう大きな運動になっていかないとね」

 

 

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武満 「大島渚にしても篠田正浩にしても、黒澤さんの作品に刺激されて実際に映画にはいった人たちなんですが、《心中天網島》なんかでも、セットなんかもっとお金があれば…。実際全部で80万ぐらいの予算でやってるわけですよね」

 

 

黒澤 「でも困難が不思議な形象を生むこともあるしね。そういう苦しい波を潜るということもいいことだと思うんですよ」

 

 

武満 「ほんとに明確なテーマを持っている人であれば、どんな場合でも自分を保っていけるだろうと思いますし、決して金銭的な問題に責任転嫁できないとは思いますが…」

 

 

黒澤 「しかし、もっと絵とか音とかしのぎを削っていかないと面白くないよね。俳優さんも生まれかわったつもりで第一歩からやり直すつもりでないとね。映画が駄目になってから、いろんな垢がついちゃいましたよね、みんな。ぼくの場合はいつでも一人は新人を入れてるんですよ。その人はたいていスターになって、会社がめちゃくちゃな使い方をして駄目にしちゃうけどね。いま二十歳そこそこの人たちで、もの凄く映画に打ち込んでる人たちがいますよね。いいものだけ見てまわってるような。どこへいって映画を創る勉強をすればいいのか判らない。そういう場所がないんでしょう。それで苦しんでいる人たちがいるから、ぼくはむしろその人たちをなんとかしてね、次代を担う人たちにしたいと思っているんです。あとが続きゃなきゃどうにもならない。もちろん中堅の人たちも応援しなくてはならない。これから出てくる人たちを、教育っていうと生意気だけど育てる道をもっと開いて、それが監督に限らず、映画音楽、映画美術にしろそういう人たちを全部育てていかなければね。そういう才能は方々にたくさん揃っているんですよ。そういうのをひとつも受け付けないのが今の映画界なんです。それから、かつて日本映画及び世界の映画に立派な足跡をのこした人たちというのは、晩年になっても我々が現役の人間が保護しなきゃいけないと思うんだな。ある種の尊敬をもっとちゃんと。そういう点がひとつも出来てないですよ。そういうことも、僕は直していきたいと思うんです。いまさら若い人たちのような作品を創るわけにもいかないし、ある意味で自分のスタイルをこのまま続けてゆくしかないし、オーソドックスな作品を撮ってゆくしかないですよね。ですから、いま二十歳前後の映画に打ち込んでいる人たちは音感もいいし、勉強もしてるし、そういうまだ何にも悪いものに染まってない人たちを育てていくのが一番いいと思うんです。伊丹万作が書いていたことですが、おれは映画を創るんだ、映画のテーマはいったい何だ、それを肝に銘じて撮影所の門をくぐれってね。そういう心構えが絶対必要なんじゃないかね」

 

続きはこちら  武満徹対黒澤明C「ジョン・フォードはどこを切っても活動写真になるんだ!」 

 

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