『野良犬』『酔いどれ天使』『七人の侍』などに見る黒澤明の偉大なる先取り!

偉大なる黒澤明

日本を代表する映画監督、黒澤明。彼の偉大さは誰が何を言おうが揺るぎないもののように思える。

 

例えば、ジョージ・ルーカス、フランシス・フォード・コッポラ、スティーブン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシと言った現在のハリウッドを代表する映画人たちが、尊敬の言葉を口に作品のサポートを引き受け、改めてクロサワの権威を突きつける。

 

いや、それら外圧なくしても、国内の文化人たちが、長年に亘り尊敬と愛着を熱っぽく語っている。

 

リメイク以外で「クロサワ」の直接的影響がみられる映画を思いつくまま挙げても、『エルム街の悪夢3』におけるナイフを手にした精神病患者を遠巻きにする病室へ一作目のヒロイン、ナンシーが単身乗り込み、鮮やかな手並みでナイフを取り上げるシークエンスは言うまでもなく『七人の侍』の志村喬のあの印象的な登場場面だ。

 

そして全編これクロサワのケヴィン・ジャール脚本・オリジナル監督作『トウームストン』のラスト近くのドクとリンゴの超至近距離の一瞬の対決は『椿三十郎』の三船と仲代の対決そのものだ。

 

また、ジョン・ミリアスのソ連軍のアメリカ侵攻を描いた『若き勇者たち』では、レジスタンスの兄弟が悲壮な死を迎える場所が、『生きる』の志村喬が最期の時を迎えたと同じ公園のブランコの上といった、引用や影響というよりは、オマージュと呼べるものまである。

 

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『野良犬』『酔いどれ天使』『用心棒』『七人の侍』の先取り観

またこれは偉大なる先取りというべきものだが、『野良犬』の追われるものが実は追うものの陰画的存在であるという設定は、近年のアメリカ産サイコスリラーの基本となっている。

 

このような、ハリウッドにおけるクロサワの浸透とは対照的に、近年の日本の映画でクロサワを感じさせるものはあまりない。

 

むしろアニメの方で、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』のクライマックスで異国の姫の仮装をしたナウシカが大詰めで傷ついた玉虫の体液でその衣が伝説の救世主の姫のまとう色に染まり、彼女の真の使命が明らかになる発想の元には、『野良犬』で刑事が犯人と戦ううちに泥で刑事の服が犯人と同じ色に染まったのと同じだ。

 

また『乱』で秀虎の三人の息子が赤黄青さながらの色を身に着け、その役どころを示していたのと同じ手法だ。

 

『もののけ姫』に至っては、黒澤そのものであるのは観た人なら誰でも着付くところだろう。黒澤が現代の日本映画と関係ないと言っても、過去の日本映画については大きな貢献があった。

 

サブジャンル発明家 クロサワ

それは新たなるサブジャンルの発明である。『姿三四郎』のヒット後、続々と講道館ものが作られたというし、『酔いどれ天使』はやくざもの、『野良犬』は刑事物、『七人の侍』は東映の集団抗争時代劇を生んだし、『用心棒』は痛快時代劇の類似品を多数生んだ。これらの仕事をあえてハリウッドに敷行しれば、『ジョーズ』『ET』などを作ったスピルバーグということになる。偉業という他はあるまい。

 

が、にもかかわらず、今私は黒澤明についての文章を記しながらとまどいと覚えている。それは黒澤明を巡る現象、例えばなぜ黒澤だけが欧米に受け入れられているのか、なぜ日本最大の映画作家として認められているのか、あるいはマスコミの理解度の薄さとか、語るに面白いテーマが数多くある。

 

映画批評 高橋実

 

※4 河出書房新社発行 「黒澤明 生誕100年総特集」より抜粋

 

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