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姿三四郎
黒澤明の監督デビュー作である。
富田常雄の小説の前半部分から、姿三四郎と恋人の乙美と南小路という、子爵の令嬢の三角関係を描いたメロドラマ的エピソードをのぞき、柔術を通じて人間的に成長していく三四郎の姿を描いている。
師匠・矢野正五郎と三四郎との子弟関係が物語の中心となっている。
師匠と弟子という、後の黒澤作品でも多く見られるテーマは、監督第一作からすでに描かれていた。
黒澤の演出は、柔道の試合などのアクションシーンのみならず、ドラマ部分でも躍動感に溢れ、三四郎と小夜の神社の階段での絡みなども、それまでの淡白だった日本映画では見られない、バタ臭いモダニズムが感じられる。
この映画でもっとも黒澤明が特色を発揮し、これは天才だと思わせるのは、三四郎が門馬三郎を投げ出すシーンである。
道場の空間に門馬三郎が横向きに横向きに浮いている静止写真が一瞬あり、次のショットで門馬は羽目板に体を打ち付ける。
道場の中はシーンとしていて、立ち尽くす人々をカメラが左から右にゆっくりとパンしていき、倒れる門馬を捕らえる。その時、天井に近い障子戸がスローモーションでゆっくり落ちてきて、門馬の上に倒れる。
「死んだ!」と思わせる演出。それまでの映画にない斬新なスローモーションの使い方である。※1
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『姿三四郎』に見る黒澤明のテクニック
時代劇評論家の春日太一氏がデビュー作『姿三四郎』の時点で黒澤明の映画技巧は日本映画界にないものであったと力説している。
明らかにデビュー作から、黒澤明印が出てますよね。どう考えても、最後の決闘シーンっていうのは、黒澤明でなければ撮れない映像じゃないですか。
あんな野原で風が強くてっていう背景で決闘しなくてもいいわけじゃないですか。屋内の道場でもいいわけじゃないですか。ああいうダイナミックな映像でやってしまうってのは、後の『七人の侍』や『用心棒』などに顕著で現れていますよね。
『姿三四郎』の時点でもう出来上がっちゃってるんですよ。やりたいことが明確に。
で、実際はセットの中に薄の原を作って、そこで扇風機をかけてやってみてるんですが、全然映像に迫力がなくて、貧弱なものになったんで、会社に無理を言ってロケでとったと。
でそのロケで黒澤名物の天気待ちが生まれると。風が全然ないからひたすら風が吹くのを待つと。
同時の日本映画はテクニック、技巧というものを軽視していて、黒澤はそれが嫌で変えてやると思っていたんです。だから黒澤は実はすごくテクニシャンなんです。
ハリウッドってのはその時代からヒッチコックだったり、ジョン・フォードが技巧や小道具や伏線をはって映画を作っていますから、それに影響を受けて映画を撮った日本で初の監督なんですね。
昔の映画ってカットがゆるいじゃないですか、なんで黒澤映画を今見ても面白いのかって、カットがシャープなんですよ、基本的に彼の中にあるリズムってのは日本映画じゃなく、ハリウッド映画なんですよ。
黒澤映画の見やすさってのはそこに繋がっているんです。根本がハリウッド映画のリズムなんです。
だから同時は日本映画界の中で反発はもちろんあったんですが、一方で小津安二郎や伊丹万作などは黒澤を評価していて、日本映画界を変えていくのはこいつだと当時の巨匠たちは黒澤をそうやって見ていたんです。
監督をやる前に、黒澤は脚本を書いていたんですが、その段階で日本のトップクラスの映画人たちは「すごい奴が来た」という共通の認識はあったらしく、こいつをどうやってデビューさせようというのが、当時のPCL(現在の東宝)に課せられた命題だったという。
期待されていた黒澤もデビュー予定になっていた作品が検閲に引っかかったり、予算が足りなかったりで、なかなか映画を撮ることができず、苦しんでいたという。酒に逃げてこの当時はアル中になっていたという。
酒の飲みすぎで胃潰瘍になったりして。
簡単なあらずじ
会津から柔道家を目指して上京してきた青年、姿三四郎は門馬三郎率いる神明活殺流に入門した。
ところがこの日、門馬らは徒党を組んで修道館の矢野正五郎を襲撃する。
しかし、それを受けて立つ矢野はたった一人だったが、徒党を粉砕し、神明活殺流は全滅。
その光景を見た三四郎はすぐさま矢野に弟子入りを志願したのであった。
年月が過ぎ、三四郎は修道館門下の中でも一二を争う柔道家に育っていた。
ある日、異様な殺気を帯びた男が道場を訪ねて来る…
企画:松崎啓次
脚本:黒澤明
原作:富田常雄「姿三四郎」
撮影:三村明
美術:戸塚正夫
照明:大沼正樹
音楽:鈴木静一
助監督:宇佐美仁 杉江敏男 中村積
出演:藤田進 大河内博次郎 月形龍之介 轟由紀子 花井蘭子 志村喬 小杉義男
※1 文藝春秋発行 小林信彦著書 「黒澤明という時代」より抜粋
各サイトレビューまとめ
Yahoo!映画 3.4点
評価件数 75件
・あの美しさ以上に強いものはない
・まだ荒いが楽しめる一作
・志村喬はこのとき既に老境に達した風格
・祭りでの男衆との喧嘩のシーンは迫力満点
・つまらなかった。それが素直な感想。
・「最長版」はDVDを買わないと見れない
・戦時の監視下、当時としては結構スリリングだったのだろう
・最後まで女から逃げています。
・礼に始まり、礼に終わる
・さすがの黒澤監督も、最初から良い作品ではなかったらしい
・時折はっとさせる画面にきらりと光るショットが魅力
フィルマークス 3.4点
-人
・言葉が力強くてまた無駄がなくてよい
・最後の野原での決闘シーン
・階段の行き来のみという空間で繰り広げられるメロドラマ
・本当の強さとはなにか?
・黒澤監督のデビュー作だから、なんかよくできている
・長い決闘シーンは黒澤映画の特徴
・志村喬の老け役が本当にすごい
・戦時中のデビュー作ながらも、そこには黒澤明の「色」がはっきりと感じ取れる
・観てて、バガボンド思い出した。
・表現の自由などない時代に、黒澤明の描き出す姿三四郎は、生き生きと力がみなぎっている
・冒頭にしろラストシーンにしろ、風が強すぎるな。
・これに関してはやはり白黒の方が味が出ているかも
アマゾンレビュー 4.3点
9件のカスタマーレビュー
・監督デビュー作なのかと度肝を抜かれる場面が多い
・後の黒澤映画に見られる要素も盛り沢山。
・場面設定がうまい
・当時の観客を惹きつけた理由が画面の躍動、勢い、瑞々しさから頷ける。
・かつてこの国にあった明治という自由闊達な時代の空気
・黒澤ファンなら必見ではなかろうか
・さわやかな映画
・今作に限ったことではないが、黒澤作品は録音が悪い
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